早稲田 卓爾教授|東京大学大学院新領域創成科学研究科 海洋技術環境学専攻

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教員・研究室紹介

教員

わせだ たくじ

早稲田 卓爾教授

講座:応用海洋物理学分野

電話番号:04-7136-4885

メールアドレス:waseda@edu.k.u-tokyo.ac.jp

Webサイト:
https://www.k.u-tokyo.ac.jp/pros/person/takuji_waseda/takuji_waseda.html
早稲田 卓爾教授 応用海洋物理学分野

略歴

1990年3月 東京大学工学部船舶海洋工学科卒業
1997年3月 カリフォルニア大学サンタバーバラ校機械工学科海洋工学専攻 Ph.D 
1997年10月-2004年3月 地球フロンティア研究システム研究員(ハワイ大学へ派遣)
1997年10月-2004年3月 ハワイ大学国際太平洋研究センター研究員
2004年4月-2008年3月 東京大学大学院工学系研究科環境海洋工学専攻助教授
            東京大学工学部システム創生学科環境エネルギーコース兼担
2005年4月-現在 独立行政法人海洋研究開発機構 地球環境フロンティア研究センター :
        気候変動予測研究プログラム、サブリーダー兼務
2008年4月-2015年5月 東京大学大学院新領域創成科学研究科海洋技術環境学専攻準教授
2015年6月-現在 東京大学大学院新領域創成科学研究科海洋技術環境学専攻教授


教育活動

大学院:海面課程の力学、海洋環境モデリング、海洋環境創造論、海洋情報学演習
工学部システム創成学科:地球科学2、基礎プロジェクトI


研究活動

(1)風波、自由表面重力波(平成3年~現在)
カリフォルニア大学サンタバーバラ校実験風洞水槽の設立に関わり、またレーダーによる砕波の観測プロジェクト(Fuchs et al. 1999)の一環としてグループ波の形成に関する実験的及び理論的研究を行った。風洞水槽は幅4m、長さ50m、深度2mで、およそフェッチ40mの地点で様々な強度、波長の砕波を造波機を用いて再現するシステムを構築した。ベースとなる力学過程はストークス波の不安定であり(Benjamin-Feir Instability)、初期不安定への風の影響(Waseda & Tulin 1999)、及びその後の弱非線形発達から砕波に至る過程を研究した(Tulin & Waseda 1999)。また、弱非線形発達過程をZhakarovタイプの発展方程式、及び、Schrodingerタイプの発展方程式を用いて数値計算を行ない実験結果と比較した(Waseda博士論文)。他に風のGust(変動)がどのように風波の発達に影響するかなど実験的研究も行なった(Waseda, Toba & Tulin 2001)。
(2)フリークウェーブ(平成16年~現在)
東京大学にてフリーク波の発生機構に関する研究を行った。線形集中、不安定などのメカニズムを考慮した造波を行い、船舶への衝撃加重の実験的研究に貢献した(Waseda et al. 2005)。発生メカニズムについては、特に非共鳴相互作用による波浪の不安定に着目し、不規則方向波の発達過程を実験水槽における造波実験と弱非線形理論に基づく数値シミュレーションにより検討した(Waseda 2006)。特に、波浪スペクトルの方向分散性が大きくなると非共鳴相互作用が急激に弱まるという結果は、世界に先駆け、2006年10月の9th International Workshop on Wave Hindcasting and Forecastingにて発表した。この研究により、ある方向スペクトルで代表される波浪場が不安定であるかは、波形勾配、周波数バンド幅と方向分散性に依存するということがわかった。また、観測データとの比較も行い(早稲田、冨田2007秋海洋学会)、例えば波形勾配と周波数バンド幅だけでは異常波の発生確率が説明できないことも示した。以上より、異常波(フリークウェーブ)の発生要因は、波浪スペクトルが大きく変動するような、風速の変動の大きい場合、強い海流の影響など、外的要因の影響についてより詳細に検討しなければならないことがわかった。このような観点から、代表者早稲田は、協力研究者田村らとともに、海流-波浪結合モデルの構築を行い、フリーク波の発生要因として波形勾配(非線形性)、周波数バンド幅(分散性)と方向分散性に着目して、複雑な風の場や海流影響下での波浪の発達について研究を推進している(田村ら2006)。この研究では、波浪の非線形相互作用項の計算精度を上げることにより、風向きの変化や海流の影響による波浪方向スペクトルの予測精度の向上に成功した(田村、早稲田、宮澤、小松2007秋海洋学会)。
(3)黒潮流路の予測と中規模擾乱(平成9年~現在)
領域OGCM(Ocean General Circulation Model)を用いて主に黒潮蛇行のメカニズムなど中規模現象の解明に関する研究を行なった。用いたモデルはPrinceton Ocean Model (POM)をもとに作られた領域黒潮親潮流入流出モデルである。このモデルでは、低流入量(25-30Sv)では黒潮は直進路をとりまた高流入量(45Sv)では蛇行路をとり、中間的な流量では(35-40Sv)多重平衡状態となり流路は直進と蛇行の間をカオス的に行き来することがわかった。このような多重平衡状態では、小さな擾乱によって流路は大きくかわり、例えば局所的な高周波風応力によって直進から蛇行へと変わることが判った(Waseda et al. 2003a)。一方、四国沖に強い中規模渦が存在し、黒潮との相互干渉で蛇行を引き起こすことが観測で示唆された(Mitsudera et al. 2001)。この現象を解明するため、簡単な同化スキームを用いて高気圧性渦を初期化し、蛇行が引き起こされる力学過程を詳細に検証することに成功した(Waseda et al. 2003b;地球フロンティア優秀論文賞)。ただし、初期化した高気圧性渦の小さなスケールの差により、その挙動が大きく変わることが判り、渦の発展の非線形性が示された(Waseda et al. 2002)。この一連の研究により、黒潮予報における非線形性の重要性、中規模擾乱の重要性が示された。このようなシミュレーションの経験は、最近行った津軽海峡の海流・潮流シミュレーション(和田、早稲田、南條2007春海洋学会)で生かされている。
(4)データ同化(平成9年~現在)
モデルと観測データの同化による融合は予測に不可欠である。データ同化には大きく二つの手法が確立されており、一つは力学的整合性の取れた解析値を得られる変分法、一方で、簡便さと必要なリソースの低さが魅力な簡略化カルマンフィルターである。簡略化カルマンフィルターでは誤差共分散行列のランクをいかに低くするかが鍵である。例えばSEEK(Singular Evolutive Extended Kalman)フィルターでは誤差共分散行列を低次の固有ベクトルで近似することにより計算負荷を大きく減らすことができる。ただし、この場合大局的な変動は補正できるが、局所的な時間スケールの小さい変動の補正は出来ない。そのような局所的な誤差を直交性を考慮して、ウェーブレット基底で表現することを試みた(Waseda et al. 2003)。簡単なOGCMを用いた双子実験の結果で、モデルの誤差、スケールの小さい変動がウェーブレット解析によって測定され誤差共分散行列の発展を診断的にとらえ、データ同化スキルの向上につながることが示された(Jameson & Waseda 2000, Jameson et al. 2002)。現在、萌芽研究(H19-22)で実用化に向けた更なるスキームの改善を開始した。
(5)データセンター、データ収集、品質管理、データサーバー(平成12年~現在)
データ管理、準備と研究活動を一つのセンターの中で関連付け、気候データの“one-stop-shopping”(この一ヶ所で、研究者、気候研究コミュニティー、及び一般の多様なデータ需要に応えることが出来る)を確立するためにアジア太平洋研究センター(Asia Pacific Data Research Center: APDRC)が2000年にIPRCの一部として設立された。インターネットを駆使したデータサーバーを開発することにより研究者等が簡便にデータを利用できるような設備を構築し、また、データ解析中心の研究を行うことにより、データ作成やデータそのものの品質向上を目指している。このデータセンターにおいて、データサーバーの構築、データ収集と管理について責任者を勤めた。現在、研究室に同様のデータサーバーを運用しており(waseda2.t.u-tokyo.ac.jp)、NOAA波浪予測データ(WaveWatchIII)、第三次IPCC温暖化予測モデル出力など多数のデータを管理・公開している。
(6)波浪海流シミュレーションの工学的応用(平成16年~現在)
Waseda, T., H. Mitsudera, (2002)は、高解像度海流シミュレーションの結果を用いて、魚の卵仔稚魚の輸送過程のシミュレーションを行い、10日程度存在する流場の双曲的特異点周辺で輸送経路が大きく変わるカオス的混合過程が重要であると指摘した。その後、大学院生清松啓司との共同研究により、マイワシ卵仔稚魚輸送過程をJCOPE(宮澤、早稲田2005)による再解析データを用いて行っている。日本南岸におけるSST(海面水温)と流れ場の関係が資源量変動に重要であると考えている(清松、早稲田、宮澤2007)。このような水産学的な応用から、現在は海洋再生可能エネルギーの利用についての研究を協力研究者の鈴木英之教授と進めている。また、青森県との潮流発電プラント開発計画では、海流・潮流シミュレーションモデルの開発を担当している(和田、早稲田、南條2007春海洋学会)
[文献]
1. Lamont-Smith, T., T. Waseda and C-K Rheem, 2007, Measurements of the Doppler spectra of breaking waves, IET Proceedings, Radar, Sonar and Navigation, 1(2), 149-157
2. Mitsudera, Taguchi, Waseda and Yoshikawa, 2006, Blocking of the Kuroshio Large Meander by baroclinic interaction with the Izu Ridge, Journal of Physical Oceanography
3. 田村仁・早稲田卓爾・宮澤泰正・小松幸生,2006: JCOPEの応用と展開, 月刊海洋, pp.475-479
4. 早稲田卓爾、2006、非線形性を考慮した造波、KANRIN、4号、38-44,
5. 早稲田卓爾、木下健、木下信、亀岡福太郎、栗本優、2006、変調波列における最大波について、水槽実験と弱非線形計算の比較、九州大学応用力学研究所研究集会「海洋巨大波の実態と成因の解明」報告、54-57
6. 早稲田卓爾、2006、海面波動研究の歴史と今後の課題―非線形波動現象の予測の必要性について―、京都大学数理科学研究所講究録
7. 宮澤泰正, 早稲田卓爾、2005、JCOPE海洋変動予測システム -工学的利用に向けて-、月刊海洋、37、644-655
8. T. Waseda, C.-K. Rheem, J. Sawamura, T. Yuhara, K. Takeshi, K. Tanizawa, H. Tomita, Extreme wave generation in laboratory wave tank ISOPE-2005, Seoul, Korea, June 19-24, 2005
9. T Waseda, C Rheem, J Sawamura, T Yuhara, T Kinoshita, K Tanizawa, H Tomita, “Extreme wave generation, radar imaging and wave loads on a ship in a laboratory wave tank “ RINA conference Design & Operation for Abnormal Conditions on the 26h and 27th of January 2005
10. T. Waseda, H. Mitsudera, B. Taguchi and K. Kutsuwada, 2005, Significance of high-frequency wind forcing in modeling the Kuroshio, J. of Oceanogr. Special Section on Western Boundary Currents, 61(3), pp. 539-548
11. Mitsudera, H., B. Taguchi, Y. Yoshikawa, H. Nakamura, T. Waseda, and T. Qu, 2004, Numerical study on the Oyashio Water Pathways in the Kuroshio-Oyashio Confluence, J. Phys. Oceanogr. Vol. 34, 1174-1196


その他

日本海洋学会、米国地球物理学会(AGU)、日本船舶海洋工学会


将来計画

海流・波浪予測データの高解像度・高精度化のために、メカニズム解明、予測から末端ユーザーへのデータ配信までを統合的に行う。フリーク波の実海域での発見とそのメカニズム解明のために、海流・波浪・風相互作用に関する研究を、数値計算・水槽実験・観測により行う。黒潮エネルギーの利用とその環境負荷を定量的に推定するため、その変動メカニズムの解明を数値計算・観測により行う。


教員からのメッセージ

大きな夢を持って研究に没頭してください。卒業後も揺るがない、しっかりとした柱を一本たてることを目標に、学生時代は自分自身を磨くことに専念してください。



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